ちゃんと分かってんだ
今朝、慌ただしく家を飛び出したら携帯を忘れてた。
引き返そうか迷ったけど時間がない。
そんな中、交通量のかなり多い道のセンターラインにうずくまる小さなカタマリを見付けた。
見ない振りをすれば良いのに、すぐにこう言うものには気付いてしまう。
生きてる
いわゆる“ふくら雀”の状態で動けなくなっているスズメだ。
助けちゃいけないのは分かっている。
でも、あのスズメは生きている。
見逃せば、必ずあと数分で車の餌食になる。
いたたまれなくなって引き返した。
Uターンしてスズメの隣りに車をとめた。
不思議そうな、邪魔そうな視線を無視して車を降りると、スズメは小さく震えながら羽を膨らませてこちらを見た。
ティッシュでそっと包む様に掬い上げると、おとなしくそれに従った。
車の中をあさると、ケーキの小箱が出て来たので、マックのペーパーナフキンを敷いてそこに入れた。
助手席にそれを乗せると、職場へと急ぎ車を走らせた。
以前、明らかにはぐれたスズメのヒナを拾った事がある。
回りには親鳥の姿はない。
血まみれのヒナは親鳥を懸命に呼んでいた。
おそらくカラスか何かに襲われたのだろう。
見ると下のクチバシがない。
放って置かなくちゃいけないのは重々分かる。
しかし人として、それを見過ごせなかった。
ヒナを連れて動物病院に行った。
獣医はそれを見るなり諦めろと言った。
まして連れて来るなど言語道断だと叱られた。
『その鳥は死ぬ運命だったんだ。』
獣医はそう言った。
死なない生き物なんていやしない。
そんなこと分かっている。
『誰が面倒見るんだ?迷惑だ。』
『ぼくが見ますから、消毒だけでもしてあげてください。』
しかし獣医は処置をしなかった。
それは正しい判断なのだろう。
責める気はない。
結局そのヒナは、その晩に我が家で息絶えた。
そんな事を思い出しながら職場についた。
そっと小箱を覗くと、スズメはすっかり回復していた。
車の中が暖かだったからだろうか。
おそらく、車と接触してショック状態だったのだろう。
今日は午後から所用があったので、半日で帰宅した。
そしてそのスズメをもとの場所で話した。
スズメは慌だしく飛んで行った。
仲間か、或いは家族か、いづれにせよひとりにならずに済んだようだ。